悪魔に貴方の「若さ」を売り、「永遠のお金」を手にしますか?

小説

「はぁ〜、今日も疲れた」

毎日毎日、会社と家の往復だった。
今日も残業。いい加減疲れた。一体いつまで続くんだ。毎日毎日残業残業。
大好きな彼女もいない。
楽しみといえば、たまのゴルフとその為のスポーツジム。それすら行けてないけど。

今日も遅くなっちまった。
「あ〜疲れた。タクシーで帰るかな」

ふと、目の前に止まったタクシーに飛び乗った。

疲れていたせいか、うとうとしてしまった。
寝てしまったような、寝ていないような、、、
その時、目の前に変な物が見えた。

「ん??、、、気のせいか」

そう思ってまた目を閉じようとしたら、なんだか声がする

「ヨォ。疲れてんな。毎日毎日仕事ばっかりで退屈な人生だな」

ん、、?なんだ?、、気のせいか、、?

「おい。聞こえてんだろ?」

目を開けると、そこには悪魔がいた

オレ「うぉっ!なんだお前」
悪魔「悪魔だよ。見りゃわかんだろ?それよりさぁ。お前の人生退屈じゃねえか?」
オレ「ウルセェなぁ。お前なんかに言われたくねぇ」

と、反論しつつも、社会人になって早5年。
仕事は忙しくなるのに、給料は大して上がらないし、変わりばえのしない生活。それが現実。
そんな日々を薄々感じてはいたが、目をそらしている自分の気持ちにも気付いてしまっていた。

悪魔「なぁなぁ。そんなつまらない人生のお前に良い提案があるんだけど、乗らねえか?」
オレ「なんだよ。うるせえなぁ。まだいたのか。悪魔との取引になんか乗るわけねえだろ!どっか行けよ!」
悪魔「まぁまぁ、そう言うなって。お前も飛びつく内容だと思うぜ?」
オレ「なんなんだよ。乗らねえって言ってんだろ!」
悪魔「まぁ良いじゃねえか。聞くだけ聞いてくれよ。お前さぁ、金のために働いてんだよな?」
オレ「はぁ?それだけじゃねえよ」
悪魔「じゃあ何があるんだ?」
オレ「・・・・・」

考えてみたら、日々に追われて、いつの間にかお金のためだけに働いている自分に気付いた。

悪魔「金だろ?」
オレ「だったら、なんなんだよ!」
悪魔「お前の若さを少しだけ譲ってくれないか?若さと引き換えに、永遠に困らない金をやる。どうだ?」
オレ「はぁ?何言ってんだよ。そんなの嫌に決まってんだろ!」
悪魔「そうか。じゃあ今のままで良いんだな?」
オレ「・・・・・」
悪魔「チャンスは、二度とねえぞ?良いんだな?」
オレ「・・・・・二度と?」

考えてみたら、この先なんてたかが知れてる。20年先の先輩を見れば、20年後の自分が見える。今と大して変わらない。ただ、少しだけ立場が上になって、少しだけ給料が上がってる。多分、結婚してんのかな?ワクワクもドキドキもしない。想像通りの人生。

でも、考えてみたら、社会人になる前は、『絶対に独立して、超金持ちになってやる』とかって息巻いてたっけな。いつの間にか、社会に流されてたんだな。

オレ「若さを少し譲れば、永遠に困らない金をくれるんだな?」
悪魔「ああ。いくらでもやるよ。使いきれねえぞ」
オレ「そうか。分かった。それなら悪くないかも知れないな。何年分だ?」

このまま人生が終わるくらいなら、一旦金持ちになって、自由にいろんなとこ行って、毎日毎日豪遊して遊びまくってやる。それで、5年か10年寿命が縮んだって問題ねぇ!一生困らねえんだからな!

オレ「さぁ、何年だ?」
悪魔「30年」
オレ「さ、、、30年?!何言ってんだ!何歳まで生きられるか分からないのに、30年も若さを譲るのか?」
悪魔「嫌か?だったら、この取引はなしだ。じゃあな」
オレ「おい!おい!ちょっと待て!分かった分かった。30年だろ?」

30年。結構長いけど、今は人生100年時代。30年短くなったって、70歳くらいまでは生きられんだろ。悪くない。まだ40年くらいは死ぬほど遊べるぜ!

オレ「よし、分かった!OK!30年分の若さ譲るる。これで取引成立だ。な?」
悪魔「分かったよ。よかったな!これで、お前はもう一生お金にも困らないし、働かなくて良い」
オレ「ああ。久々にワクワクするぜ」

・・・・・・・・・・はっ??

そんなやりとりがあったと思ったら、気付いたら、タクシーは目的地に着いていた。

(・・・なんだ?夢だったのか?なんだか変な夢だったな)

オレは、変な夢を見た。
でも、夢で良かったような、久々にワクワク出来て、ちょっと残念だったような複雑な気持ちでベッドに眠りについた。

翌朝、すっきりと目が覚めた。
いつもの通り身支度を整えるため、バスルームへ向かった。

そこで、、、、、衝撃の光景を目にした。

「な、な、なんじゃこりゃ!だ、誰なんだ、このおっさん?!」

そう、鏡の前のおじさんは、30年後の自分だったのだ。

失ってしまった時間は、もう、取り戻せない